大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(く)94号 決定 1961年1月19日

少年 Y子(昭一七・二・一七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、少年の今回の非行は悪いことには違いないが、相手の男Bも不良青年であつて、近所の娘を妊娠させたこともあり、今度も結婚するからと偽つて少年と関係を結んだあげく捨てようとしたので、少年が憤慨し本件の放火をしたのである。少年はこれまで真面目に働いて来たのであり、今後は自分ら両親、親族協力して十分少年を監督するつもりであるから、少年院に送らず自分らの手許に帰して貰いたいというのである。

そこで関係記録を調査するに、少年は人夫を業とするFの長女で、昭和三十二年十月から○○電機株式会社の工員となり月収約六千五百円を得て働いている者であるが、性格は強情、頑固、独善的であり、他人の言をきかず、自己主張に固執し、協調性に欠き、他人から抑えられると非常に興奮し攻撃反抗する性質であり、また軽度の知力障害があり、その精神能力も魯鈍級精神薄弱者と鑑別される程度であるが、これらの性格等が原因で両親と折合が悪く、両親と別れて前記肩書の○田○郎方の一室を借りて起居し、前記会社に通勤しているうちに原決定のBと懇意となり、同人の甘言に乗ぜられて肉体関係を結んだところ、昭和三十五年七月十九日、右Bから他の女と結婚するからとて絶交を告げられたので大いに憤慨し、同人に対する怨を晴らすため、原決定の認定するように同人の実父G方居宅に放火し、住家、作業場、物置等を全焼させたものであつて、少年の両親、親族等には少年を監督、指導する実力乏しく、また環境も必ずしも良好ではないことを認めることができる。

右の事情に鑑みるときは、少年の性格を改善矯正し、社会生活に順応し得るよう育成指導するためには、しばらく少年を中等少年院に収容し教育するのが相当と思料されるから、原決定の処分は適切であり本件抗告は理由がない。

よつて少年法第三十三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 井上文夫 判事 久永正勝 判事 河本文夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例